睡眠

 その日は朝から雑誌の取材があった。来月号でダイエット特集を組みたいらしく、最近ダイエット食品でブームを巻き起こした萩野食品の社長にインタビューをしたいとのことだった。取材に来たのは若い女性だった。 

「ダイエット食品を開発するきっかけはなんだったんでしょうか?」

「こういう職種ですから、一時期は体重が二十キロも増えてしまったこともあったんです。昨年の春から冬にかけてかな。激太りですよ」

 そう言って、彼は例の社員旅行の集合写真を女性に見せ、自分の弟にそっくりの、大柄な男を指さした。それは萩野自身だった。弟が分身して写真に写っていたわけではなかったのである。写真を確認した女性は目を丸くした。

「え! これが社長さんですか?」

「ええ、こってりと太っているでしょう。太るたびに服を買い替えなきゃいけないので、たいへんでした。とちゅうで面倒になって、CMで使用されたサイズの異なる大量の衣装を買い取ったこともあるくらいです」

「あ、あのCMですね! 私も拝見しました。なるほど。ですが今はとてもスリムな体型をしていらっしゃいますよね。これはやはり、御社の商品を利用された結果なんでしょうか?」

「ええ、まあ。健康的に痩せられるのがうちの商品の強みとしているところです。ですが、ただダイエット食品を食べたり、サプリメントを摂ったりしているだけでは効果的ではありません。あくまでもダイエットのサポート食品と考えていただければと思います」

 萩野はそう答えた。最後は濁した。決して嘘はついていない。

 彼は食品の試食をしすぎて弟並みに太ってしまったのだ。ダイエット食品を看板商品とする会社の社長が太っていてはブランドの信用問題にかかわるし、何より取材好きの彼は太った姿をカメラの前にさらすのは抵抗があった。彼は減量するために冬眠したのである。

 【end】

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